ITエンジニアコミュニティレポート 〜採用手法として注目を集めるエンジニアコミュニティ 最新動向を調査~

久松剛 2022年8月30日

久松剛

目次

昨今、エンジニアコミュニティが採用チャネルとして注目を集めています。背景には、技術革新による採用難易度の向上と、ITエンジニアの求人倍率上昇によって求職者とのタッチポイントが作りにくくなっていることが挙げられます。 そのため、採用担当者自らコミュニティに出向き母集団形成を行うケースも登場しています。 またリファラル採用形態も変化しており、友人・知人を紹介するケースだけでなく、セミナーやコミュニティで知り合ったITエンジニアを紹介するというケースも登場しています。

このように、採用チャネルとしてコミュニティが注目を集める一方、コミュニティ数が多く、中には活動が停止している団体も複数あることから、自社の採用にあったコミュニティを探しにくいのが実情です。 そこで本総研では、100名以上の登録があり、半年以内に活動が実施されたコミュニティについて調査を実施いたしました。調査した団体を主催元別(企業主催、地方拠点、その他)に分け、各団体の特徴についてご紹介します。

分類別コミュニティ数 クリックして拡大

調査対象:ITエンジニア向けイベントの登録が多いポータルサイトであるconnpass、TECHPLAYを中心に下記の条件に該当するコミュニティをピックアップ

  • カテゴリ・コミュニティ登録がある
  • 調査日段階で100名以上の登録がある
  • 調査日前後半年以内に活動が実施されている

調査日:2022/7月末

企業主催のコミュニティでは、TECH PLAY、Forkwell、メルカリが登録数1.5万人越え

企業主催のコミュニティ 全件掲載版はこちら

企業主催のコミュニティより抜粋したものを上図に示します。

TECH PLAYはパーソルイノベーション株式会社が運営しているコミュニティです。TECH PLAYが主体となって企業イベントをコーディネートすることもあることから登録者数が多い状態です。

DEEP LEARNING LABは日本マイクロソフト株式会社が主催しているコミュニティであり、協力企業としては日鉄ソリューションズ株式会社、株式会社電通国際情報サービス、SCSK株式会社、DefinedCrowd Japan株式会社、DATUM STUDIO 株式会社、テクノスデータサイエンス・エンジニアリング株式会社、ax 株式会社、インテル株式会社、一般社団法人 リテールAI研究会、 株式会社キカガク、株式会社ティー・アール・イー、株式会社アイデミー、データブリックス・ジャパン株式会社などが名を連ねています。

こうした連名型のコミュニティを除くと、Forkwell、LINE、メルカリ、CyberAgent、Yahoo! JAPAN、クックパッド、Sansan、DMM.comといった有名企業が続きます。これらのコミュニティの登録者数は6000人を超えています。

2022年5月に日本CTO協会がエンジニアが選ぶ開発者体験が良いイメージのある企業ランキング30を発表しています。技術者合計633名を対象に、ソフトウェアエンジニアをはじめとする技術者にとって各社が開発者体験に関して、どれくらい魅力的な発信をしているかという「テックブランド力」を調査するためのアンケートを実施し、その上位企業を発表したものです。開発者体験が良いイメージのある企業ランキング上位企業の殆どがアクティブな企業主催のコミュニティにも含まれていることが確認されます。ソフトウェアエンジニアにテックブランド力をアピールするためにはコミュニティ運営が不可欠であることと言えます。

これらの企業も突然参加者数が増えたわけではありません。継続してのイベントや、他社とのタイアップで少しずつ参加者数を確保していくスタイルが一般的であり、今でも他社を巻き込んでの共催イベントが観察されます。これからコミュニティ運営を考えている企業の場合、こうした企業の動きを観察することで、自社ブランディングのヒントになるでしょう。

地方拠点のコミュニティでは、Yahoo! JAPAN Osakaが5000名越えで一強

地方を拠点とするコミュニティ クリックして拡大

フルリモート採用が広がりつつある昨今ですが、地方在住エンジニアの中には一定数「近隣に在住するITエンジニアと繋がりたい」という需要があり、地域の名前を冠したコミュニティが運営されています。

Yahoo! JAPAN Osaka、Yahoo! JAPAN Nagoyaは数少ない企業主催の地方コミュニティです。ヤフー株式会社は支店があることを武器に展開しており、特にOsakaでは参加者数が5,000人規模と存在感を示しています。

全体を通して大阪、福岡が参加者数上位のコミュニティとして観察され、日本のITエンジニアの在住エリアの分布が伺えます。

コロナ禍に伴いオフラインでの集合が難しくなった結果、アクティブではなくなった地方コミュニティは少なくありません。しかし複数の有志が継続しているケースはあり、北海道のJava Do、北海道情報セキュリティ勉強会、iPhone Dev Sapporo、静岡県のUnagi.pyのように技術領域と地域性を両立しているコミュニティはあります。

多くの場合、技術領域を問わずに広くLT(ライトニングトーク、数分程度で終える軽い発表)や勉強会を開催するコミュニティとなっており、富山の富山合同勉強会、長崎県の長崎IT技術者会、香川県のUdon Techなどが一例として挙げられます。

これらの地域性の強いコミュニティは、開発拠点を設立したり、地域採用したりする際の認知を進める際にも有効であると考えられます。リモートワークが進み、地方在住ITエンジニアや地方開発拠点とのコラボレーションに抵抗が少なくなってきた現在では、これらのコミュニティを通して任意の拠点で企業認知を進めることも選択肢として考える必要があるでしょう。

その他コミュニティでは、モダン言語のコミュニティが上位に

その他 クリックして拡大

企業主催ではなく、全国展開をされているコミュニティについて次に示します。

参加者が1万人を超えているコミュニティとしてはIoT LT、UI Crunchが存在します。続いて8000人を超えているコミュニティとしてはGDG Tokyo、Kubernetes Meetup Tokyo、PyCon.JPと続きます。

技術領域の観点で見ていくと、IoT、UI、コンテナ技術、Python、Golang、node.jsとモダン技術を扱うコミュニティの参加者数が多いことが伺えます。自社で採用したいITエンジニアが身につけている技術が明確になっている場合、その経験者や知識があるITエンジニアへの認知を進める上ではこれらのコミュニティにアプローチすることが効率的でしょう。

コミュニティとの関わり方のポイント

各コミュニティについて自社社員の登壇を促すというのは一つのポイントです。登壇者の育成には、まずは社内で内輪の発表を経験した後に、小さなコミュニティでのLT枠などから発表することに慣れ、徐々に大舞台にシフトしていくことで社内で対外的に露出できる人を育成していくことができます。

また、コミュニティに参加する方々への認知を広げるという観点では、企業スポンサーになるということも有効です。コロナ禍以前は会場提供、軽食提供などをすることが一般的でしたが現在ではそうした機会は減少しています。ロゴスポンサーだけではインパクトが薄いため、スポンサーセッション、スポンサーLTがあるコミュニティへの参加が有効です。また、コミュニティ維持に必要なスタッフ業務について企業が人員提供をすることも歓迎されますし、リファラルの観点からも効果的です。

ALGYANでは日本マイクロソフト株式会社をプラチナ賛助会員に迎える他、25社の企業からの共催・後援・協賛実績があります。支援金は全国のハンズオンキャラバン、アプリコスト運営、デバイス無償配布などに充てられており、大学や専門学校など15校とのつながりを実現しています。

Webに関するクリエイティブコミュニティであるDISTでは、スペシャルスポンサーとして株式会社ドットインストール、ゴールドスポンサーとして株式会社まぼろし、株式会社RYDEN、株式会社ゆめみ、株式会社サムライズムが名を連ねています。

カスタマーサポート、カスタマーサクセス、UXデザイン、マーケターを対象としたCS HACKでもプラチナサポーターとしてアイティクラウド株式会社、株式会社インゲージ、合同会社selfree、カラクリ株式会社、アディッシュ株式会社が名を連ねています。いずれも参加者がよく利用するであろうコールセンターシステムやマーケティングオートメーションサービス、チャットボット、コンサルティングサービスなどを提供している会社であり、参加者と利用者が近いコミュニティをサポートすることで採用だけでなくユーザーとしての認知を広げているものと考えられます。

このように採用像に近いコミュニティに人やお金、ツールを提供することによって認知を拡大していくという選択肢が広がっています。自社でできることをヒト、モノ、カネといった観点で整理し、アプローチしていくことがポイントとなります。


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